モニター会レポート
「モニター体験ワークショップ
~字幕、音声ガイドで楽しむ映画を考える~」ご報告
MASCでは、「字幕・音声ガイドの制作過程とモニター検討会を知り、映画の新しい見方を体験する」をテーマに視覚障害の方参加の【音声ガイド編】、聴覚障害の方参加の【字幕編】のモニター体験ワークショップを行いました。
ワークショップでは、映画のバリアフリー化の現状、参加者の音声ガイドや字幕に対しての考え方、ガイドや字幕制作上の注意点、映画製作時の裏話など様々な話に加え、活発な意見交換もされました。当日の様子を一部お伝えします。

音声ガイド編
2016年
2月20日
当日は、7名の視覚障害の方(残念ながら体調や天候の都合により欠席者もあり)、映画製作者、音声ガイド制作者、MASCスタッフが参加しました。
◆映画の音声ガイドの現状について
※音声ガイドが付いたの映画本数、バリアフリー化の追い風となる法整備などの説明
Q:昨年2015年に、映画館で公開された日本映画は581本ありました。
この581本の中で音声ガイド付きで劇場公開された作品はいくつあるでしょう?
(ボランティア対応ではなく、劇場公開時に公式の音声ガイド付きで上映された作品のことです。)
①66本 ②13本 ③7本
正解は、②13本 でした。(MASC調べ)
(③と予想された方が多かったです。13本もあるの?というご意見もありました。
13本のうち昨年MASCが協力した実証実験で、音声ガイドを携帯端末から提供した6作品も含まれます。)
◆音声ガイドモニター体験ワークショップ
※映画「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」音声ガイド無し版と有り版の鑑賞
※映画「あん」音声ガイド有り版の鑑賞
※音声ガイド付き映画の制作過程について etc
【参加者のご感想】
*音声ガイド有り版と無し版を鑑賞してみて
・最初に音声ガイド無しでみたときは、人の声が大きくなったり小さくなったりとかになっていたシーンの状況がわからなかったが、ガイドを聞いて、画面から近い、遠いというカットの切り替えをしているから大きくなったり小さくなったりしているのが、音声ガイドがあるとよくわかった。
・いろいろな音のヒントがあり、買い物袋の中で瓶がぶつかっている音とか、最初は気づかなかったが音声ガイドを聞いて、なるほどと思った。
・小さい頃は見えていたので、音声ガイドの中に色がでてきたりすると昔の記憶をつなげながら映画を観ている。音声ガイドが自分の想像の助けをしてくれた時はすごく楽しめた映画と感じる。音声ガイドがうるさい時は、聞かないで楽しむこともある。自分の中でバランスをとりながら楽しんでいる。
・音声ガイドのナレーションについては、映画のジャンルによりけりだと思います。
淡々とした映画だとフラットにガイドしてもらった方がいいし、明るい映画だけど、ナレーションの感情がつよいとガイドに引っ張られちゃうかも。好みの問題ですが、よい程度だといいと思います。
【音声ガイド制作者のお話】
*音声ガイド制作時の注意点
・音声ガイド台本を書く時に注意している点は、セリフとセリフの間の2秒から3秒のタイミングで入れるべき情報は何か、時間と情報のせめぎ合いをしながら入れていく。
モニターの意見を伺う時は、映画に対しての好き嫌いか、音声ガイドについての好き嫌いかを整理し精査しながら聞いています。
また、映像美がすごく表現されていると感じた時は映像をきちんと説明したり、セリフのやり取りでストーリーが展開していく映画の場合は、なるべくセリフを聞いてもらえるようなタイミングや量にするなど、ガイドの方向性の芯を一本立てます。
視覚障害者向けの音声ガイドと言いますが、人によって特性も好みも違うので、全員の好みに合うガイドというのは難しいかもしれません。ですが、同じタイミングで笑ったり泣いたりできる音声ガイド作りができればよいと思っています。
【映画製作者のご意見】(敬称略)
・山上徹二郎(映画「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」プロデューサー/映画製作・配給会社「シグロ」代表)
「映画では演出上の効果を考えて、伝えたいことを選んで伝えるというようにしている。健常者、晴眼者でも、誰もが映画を理解できているかというと、そうではないと思う。この音声ガイドを制作する際に監督が心がけたのは、目が見えない人のためだけにということではなく、すべての観客がバリアフリー版でもう一回作品を楽しんでもらうということ。音声ガイドが入ることによって、映画としても新しい表現の発見があるということを感じた。」
・河瀬直美(映画「あん」監督)
「見えていても、理解している、していない人がいるということが大前提だと思っていて、
映画だけでなく、同じ空間でも感じている人と感じていない人がいるというのが日常にある。
同じ日本語を話しているのに通じていないと思うことがあり、音声ガイドが、目の見えない人のためにとこだわりすぎると、すごく型にはまったものになっていってしまうのかなと思う。
参加者AさんとBさんの意見が、音声ガイドの量の多さで自分で想像したい、想像したくないという意見があったが、たとえば、見えている人でも、ハリウッド映画のようなわかりやすい映画が好きとか、内面を考えることができるような映画が好きとか、両方好きとか、チョイスできる仕組みが求められる。ビジネスにもなるんだろうなと思う。」
【質問コーナー】
参加者A:今回の音声ガイドはかなり少なめに気がしますが、分量はどう決めるのですか?
音声ガイド制作者:この作品は静かな映画だし、自然音がたくさん聞こえるので、それは聞いてもらえるように本編の音に委ねるような作り方をしようと考えました。
(本編の一部しかお見せしていませんが)暗い部屋としかいっていないのは、前の同じ部屋の場面で説明している為です。静寂の中の目覚まし時計の音を生かす作りにしました。
監督にも原稿はお送りしたが、いかがでしたでしょうか?
河瀬直美監督:原稿は見ました。初めて、私は「音声ガイド」があると知りました。
初めて自分の作品に付いたということもあり、正直一つの演出だと思いました。
どうして音声ガイド制作者たちは私の感情をわかって、言葉にしてガイドにしているのかと思ったところもありました。何度もこの作品を観て導き出されたのだと思い、今日はモニターワークショップに来てみたいと思いました。
◆音声ガイドモニター体験ワークショップに参加した皆さんのご感想
・見えなくなったときに、映画に対する嫌悪感があったが、みなさんとお会いしてポジティブになった。想像で楽しめばいいんだと思った。映像と一致していなくてもそれでいいんだと思えて、もっと触れたくなった。
・見えなくなってから、映画の2時間がもやもやして長く感じていた。音声ガイド付きってどうなんだろう、と思っていたが、映画製作者から「演出のひとつ」という話が聞けたのがよかった。
・最初にガイドなしでみて、ガイドありでみて、その違いがわかったので、楽しみ方として、両方見ると想像力も研ぎ澄まされるのかもしれない。そういう楽しみ方もしてみたいと思った。


字幕編
2016年
2月27日
当日は、6名の聴覚障害の方(残念ながら体調や天候の都合により欠席者もあり)、映画製作者、字幕制作者、MASCスタッフが参加しました。
◆映画の日本語字幕の現状について
※日本映画の字幕の本数、バリアフリー化の追い風となる法整備などの説明
Q:昨年2015年に、映画館で公開された日本映画は581本ありました。
この581本の中でバリアフリー字幕(聴覚障害者用日本語字幕)付き(スクリーンにバリアフリー字幕が焼き付いている上映)で劇場公開された作品はいくつあるでしょう?
① 180本 ②66本 ③6本
正解は、②66本 でした。(MASC調べ)
(ほとんどの方が③6本と答えていました!
66本の昨年MASCが協力した実証実験で、字幕をメガネ型端末で表示した6作品も含まれます。)
◆字幕モニター体験ワークショップ
*映画「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」の字幕無し版・有り版の鑑賞
*映画「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」の字幕有り版の鑑賞
*邦画へのバリアフリー字幕付き映画の制作過程と字幕の一般的なルールについて etc
(バリアフリー字幕:セリフだけでなく話者名、環境音、音楽、動物の鳴き声を伝える表記などが付いている字幕のこと)
【参加者のご感想】
*台詞のみの字幕とバリアフリー字幕の印象の違いについて
・イルカが鳴く声とか、観衆のざわつきなど、そういうのが、私には分かりませんでした。それが、字幕で文字によって表すことで、表現が豊かになり、情報量が多くなっていいなと思います。
・波の音が聞こえず、海だけ見えているので、「波の音」という字幕が出ると、イメージが湧いてきて映画がより楽しくなると感じました。
・♪マークだけではなく、例えば、タイトル、どのような音楽か分かる説明があったほうが、イメージが豊かに広がると感じました。
・文字情報が多すぎて、映像と字幕の両方を追うので、目が疲れた。
・2行で字幕が出たとき、誰の発言か特定できないことがありました。
【字幕制作者のお話】
*バリアフリー字幕制作時の注意点
・映画を製作した人がどう伝えたいかということと、その中身が皆さんにどう伝わるかが大事な部分です。
モニター検討会では、人によって聞こえ具合や、字幕そのものの好みがあり、全く違った意見がたくさん出てきます。いろんな方のご意見や製作側からのこう見せたいという意見など、全体を聞いた上でバランスを取り、調整をとりながら仕上げてきます。
・話者名(台詞の前に表記する名前)は登場人物の正式名称を伝えたいためではありません。
私たち健聴者が映画を観たとき、自然に、男女の声や高い声、低い声など声色の違いを自然に聞き分けています。
この声は同じ人が話しているというサインとして、作品全体を通して、違和感のない、自然に流して観られるような話者名の付けかたを意識しています。
【映画製作者のご意見】(敬称略)
山上徹二郎 (「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」 「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」プロデューサー)
・映画製作者側からいうと、字幕を付けることについては、実は、非常に消極的で、10年ぐらい前まではなるべく字幕を付けたくないという人がたくさんいました。映画というのは映像と音声で表現する芸術作品の1つであるという捉え方があり、字幕を付けることは映像を見にくくするとか、映像表現を邪魔するのではないかという先入観がありました。
しかし、125年くらいしかない映画の歴史の半分は、無声映画。スクリーンに映る映像を見ながら生の音楽演奏をつけて、音楽を聞きながら映像を観ていました。音声がないので、映像に対して必要な情報は作品の中に字幕の画面を挿入して映画を楽しんでいた。
本来、映画の歴史は字幕と密接に関係して誕生していたにもかかわらず、その後、無声映画から進化して音声がつくようになってからは逆に字幕をつけることに消極的になっていきました。
ドキュメンタリー映画の場合は、字幕を付けて話している言葉を補完するということを最初からやっていましたので、字幕を付けることに対してはそんなに抵抗はなかった。
・映画にバリアフリー字幕を付けるようになってから、感じたことは、私自身も映画監督の皆さんも、逆に字幕を付けることで、「映画の表現が豊かになった」「映画の表現が立体的になった」とか、映画にとってプラスになっているという考えが、実際に字幕制作に携わった映画関係者の中には、増えています。
・字幕を付けることになったことで、映画の表現が豊かになったことのひとつに、日本語が持っている“表現の豊かさ”があると思います。
例えば、広島の表記を、「広島」「ヒロシマ」「ひろしま」「HIROSHIMA」と変えるだけで、
漢字の「広島」の場合は地名ですが、カタカナで「ヒロシマ」とする場合は原爆のあった「ヒロシマ」を表現するなど、それぞれに違う意味を伝えることができます。
そういう点では、バリアフリー字幕はまだまだこれから、映画にとって、開発していく余地のある、進化する余地の残っている映画表現の一分野だと思っています。
【質問コーナー】
参加者:一也とイルカがたわむれるシーンがありました。そのときのバックの音楽ですが、歌っているようで、でも歌詞がないなと思っていた。あれは何ですか?
山上プロデューサー:ハミングです。
あれは人間の声ですが、言葉を喋るのではなく、楽器の代わりに人間の声を使う表現です。あのシーンのために作曲した音楽を入れました。イルカのフジは、メスなので、女性の声を使った。イルカが歌っている、そういう感じでしょうか。
字幕制作者:私たちも聞いていて、自然に女性のハミングの音楽だと認識しているので、フジがメスだから女性のハミングということが製作の意図としてはっきりとある場合は、その情報は、字幕として必要な部分と思いました。音楽に対する説明は、本当に難しいところです。

最後に、MASC理事長でもあり、映画の製作・配給をしている
山上徹二郎からバリアフリー版の制作にあたっての話がありました。
「映画会社の多くは、公開した映画を鑑賞した観客からお金を払ってもらい、次の映画の製作をしている。音声ガイド、字幕をつくるには、映画製作費にさらにプラスのお金がかかる。そのため、音声ガイドや字幕などの制作費用は、より多くの人に映画を見ていただくことにつながらないと、なかなか一般的な普及は難しい。
当面は国の助成金が多少あり、その助成金で、映画にバリアフリー字幕を付けていくことが少しずつ広がるだろうが、映画はやはり娯楽でありエンターテインメントなものなので、最終的にはバリアフリー映画が経済的に自立していかないと続かないと思います。また、普通の映画館で日常的にバリアフリー映画を鑑賞できる環境が整わないと、字幕や音声ガイドが制作されていても観ることができない可能性もでてくると思う。
映画製作者がまず、バリアフリー版をつくるようになり、配給会社が理解して配給していくこと、そして映画館がバリアフリー映画を鑑賞できる環境を整備する。この3つがそろうことではじめて広がっていくと思う。
ですから、字幕や音声ガイドをつけることで、お客さんが増えて、たくさんの人に観てもらえる環境、状況がでてくることが、映画のバリアフリー化を推進する大きな力になると思っています。」
ご参加、ご発言いただいた皆様、ありがとうございました!
ふだんなかなか接点のない人たちがひとつの映画でつながり、共通の話題をもつことがバリアフリー映画の一番の魅力だと思います。映画やテレビ番組の感想などで職場でのおしゃべりに花を咲かせたり、映画が外出するきっかけになる、と聞くととてもうれしく思います。
映画を楽しむことが、皆さんの日々の生活を楽しいものにできれば、と思っています。
皆さんにこの活動をもっと知ってほしい、もっとたくさんの方に出会いたい、と思ってこのワークショップを開催しました。
このワークショップを通じて、字幕・音声ガイド制作の際に、映画製作者の製作意図を汲むのはもちろんの事、ユーザーである当事者の皆さんのご意見を聞き、取り入れていくことは必要不可欠だと改めて実感しました。
今後もMASCでは、字幕・音声ガイド付き映画の普及促進活動と共にモニター検討会の必要性を広めていきたいと思います!
モニターにご興味のある視覚障害の方、聴覚障害の方からのご連絡もお待ちしております。
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*このワークショップはアーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
「平成27年度芸術文化による社会支援助成金」で実施いたしました。
